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沖縄本島を含む琉球列島は、九州南端から台湾へ弧状に連なり、太平洋と東シナ海の境界になっている。列島西側の東シナ海側は琉球列島に沿って水深2,000m以上の沖縄舟状海盆があり、その西側は200m以浅の大陸棚が広く発達している。沖縄舟状海盆は西側が東シナ海の大陸棚、東側が琉球列島に遮られていて孤立している。琉球列島側の最深部は1,200m程度しかないために、沖縄舟状海盆の1,500m程度以深の海水は太平洋側とは性質が異なっている可能性が高い。一方、東側は水深7,000mを越す南西諸島海溝があり、急深で、そのさらに東側は太平洋の深海部とつながっている。沖縄本島付近では、黒潮の本流は本島の西側を北上している。
海洋の下層水のもつ資源の利活用のためには、海水の資源性や、その鉛直・水平分布特性と、回復・再生速度を把握する必要がある。現在、25°48’N、127°44’Eの水深約1,700mの斜面部に浮き漁礁タイプの係留系「海ヤカラ1号」が設置されていて、水深600mと1,400mから亜表層水(以下、深層水とよぶ)をパイプで汲み上げてその資源性の一部が利用されている。ここでは「海ヤカラ1号」の設置海域の深層水に着目し、その資源特性の一部と再生速度を検討する。
方法
現場調査は1997年12月21日の16:00〜18:30に金属工業事業団の調査船「第2白嶺丸」で「海ヤカラ1号」の設置海域において実施した。調査時にPDR(Precision
Depth Recorder; 精密音響測深機)で測定した水深は1,680mである。ロゼット型のニスキン採水器(容量12・で金属などの混在が無いように特別配慮)12本と、溶存酸素センサー(Beckman,
Model 880)を装着したCTD(Sea Bird, SBE-9/11)システムを毎秒約0.5m(降下時)、約1.0m(引き上げ時)で移動させながら測定した。採水時にはシステムの移動を停止した。
取水試料は直ちに船上で硝酸態窒素+亜硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、珪酸態珪素およびアンモニア態窒素をオートアナライザー(Alpkem
RFA300)、リン酸態リンを試験管で反応させた後に分光光度計(Hitachi, U-1000)で定量した。それぞれの分析法は硝酸態窒素+亜硝酸態窒素がCu-Cdカラム還元後にスルファニルアミドによりジアゾ物質を発色させてから比色(Morris
and Riley, 1963)、亜硝酸態窒素はスルファニルアミドによりジアゾ物質を発色させてから比色(Bendschneider
and Robinson, 1952)、珪酸態珪素はモリブデン酸ブルー・スズ還元法(Mullin and Riley, 1955)、
アンモニア態窒素はKanda(1995)、リン酸態リンはモリブデン酸ブルー・アスコルビン酸還元法(Murphy and Riley,
1965)に従った。
クロロフィル色素は200・から1,000・の試水を孔径1μm、3μm、10μmのヌクレオポアー濾紙およびWhatman
GF/F濾紙で濾過し、濾紙上に捕集された懸濁物を一昼夜暗所でdi-metyl-formamideにより冷凍抽出後(Suzuki
and Ishimaru, 1980)に蛍光光度計(Turner Designs, 10AU)を用いて蛍光法(Yentch
and Menzel, 1963)で定量した。
結果
1.水温・塩分の鉛直分布特性
水温は表層が24.0℃、測定した最大水深の1,659mは2.35℃で、水柱として上下で20℃以上の温度差があり、100mから800mに19℃温度差を持つ水温躍層が発達し、顕著な成層構造を示した。表層100mは水温がほぼ一様に見えるが、その部分に着目して1mごとの測定値をプロットすると、微細な水温変化が認められる。水深19mまでは0.002℃程度の低下が見られ、20〜40mでは0.015℃程度の範囲で複雑な温度変化を示した。40〜85mと85〜90mの間でそれぞれ0.0015℃程度の温度低下を示した後、90m以深では著しい温度低下を示している。以上の水深97m以浅の水温分布を整理すると、・20m以深の漸減層、・20〜40mの変動層、・40〜90mの漸減層、・90m以深の急変層に分けられる。
水深90m〜800mに水温躍層が見られ、水温低減率の違いから4層に分けられる。第1は水深90m〜200mで、特に水温低下が著しく水温低減率は約4.81℃/100mである。第2は水深200〜400mで、第1の層と比較すると水温低下は小さく、水温低減率は2.10℃/100mである。第3は400mから600mまでで水温低減率は3.03℃/100m、第4は600m層から800mまでで水温低減率は1.91℃/100mであった。
水温躍層の特徴から、水深200m付近までは季節的に水温が変動し、400m以深は季節的な影響を受けにくい永年成層状態にあると推定される。200mから400mまでがその漸移域と考えられる。
塩分は表層が34.7044PSUで、測定した最大水深1,659mの34.5561PSUまで、水温とは異なって表層から深層への一方的な変化ではないが、塩分の変動の様子は、水温とほぼ対応している。水温と同じく一見一様に見える表層100mには水温と同様の微細な変動が認められる。水深約18mまではほぼ一様な塩分で、それ以深が40mまで0.002PSU程度の水温変動と対応した複雑な塩分変動を示した。40〜95mは0.001PSU程度の塩分範囲で極めて変動が小さく、95m〜100mまでの5mで0.003PSU塩分が増加した。以上の100m以浅の塩分分布を整理すると、・18m以浅の一様層、・18m〜40mの変動層、・40m〜95mのほぼ一様層、・95m以深の急変層に分けられる。水深97m以浅の水温と塩分を比べると、水温と塩分の鉛直分布は良く対応するが水深に若干のズレが認められる。最も大きいものは90m〜95mでみられ、水温は急変しているが塩分の急変は見られない。反対に18m〜20mの塩分変動は水温ではあまり顕著ではない。
95m以深では、深度が増すとともに塩分が上昇し、水深204mで34.8812PSUの最大値を示した。それ以深では深度が増すと塩分は低下し、水深678mで最小値の34.2028PSUを示した。それ以深では深度とともに塩分が再び上昇するが塩分増加率は低く、最大深度の1,659mの34.556PSUに緩やかに近づいていく。塩分分布でも水深200m付近までが季節的な変動が大きく、300m付近以深は季節的な影響を受けにくくなっているように見られる。200mから300mは両者の漸移域と考えられる。
「海ヤカラ1号」設置海域では水深100m〜800m付近にある水温躍層内の上部に塩分極大層、下部に塩分極小層が見られるが、このパターンは沖縄諸島周辺海域で見られ北赤道海流まで繋がる海洋の構造的特徴である((株)トロピカルテクノセンター.
1995)。
水温・塩分から計算したσtの鉛直分布は水温と良く似ていて水温とはミラーイメージ的になっている。水深約100m以浅の表層では23.4,最大深度の1,659mで27.6と水柱の上下で4.2の差があり、水深100m以深には密度躍層が発達している。表層は一見23.4で一様に見えるが、0m〜100m層に注目すると、微細なσtの変化が認められる。20m以浅では23.360でほぼ一定だが、20m〜42mではやや複雑な密度の変動が見られる。42m〜85mはほぼ一様の密度で、それ以深90mまで少し密度が高くなったあと、90m以深では密度の急激な増大が観察される。100m以浅のσtの鉛直分布は塩分よりも水温の変動をより強く反映している。
水深90m以深では約160mまで急激に増加し、その後徐々にσt増加率が減少しながら最大深度の1,659mの27.5857に近づいていく。σtの変化する水深を読み取ると100m、120m、160m、230m、630m、780mの6点である。これらのσtが変化するそれぞれの水深間でのσtの変化率は、上から0.0/m、0.1×10-1/m、0.2×10-1/m、0.9×10-2/m、0.4×10-2/m、0.2×10-3/m、0.6×10-3/mで、120m〜160mの間が最も密度変化が大きい。水温・塩分のそれぞれからも推定されたように水深230m以浅は季節的な変動を強く受けており、350m〜400m以深は季節的な変動を受けにくく、その間が漸移域になっている様子が推察される。
「海ヤカラ1号」設置海域では、250m以深の水が西部北太平洋中央水の性状を示している。650m以深は中央値に近く、400m〜600mでは高塩分側、350m以浅から徐々に低塩分側へ移行し、200m以浅では西部北太平洋中央水の特徴から外れる。
紀伊半島沖の黒潮流軸付近の130°30´E、32°02´〜40´Nでは、水温14℃以下の水は西部北太平洋中央水の性状を示す。水温14℃以上の水では水温が高くなるにつれて西部北太平洋中央水の特徴から低塩分側へ外れていくが、全体のパターンは逆S字型で一致している。
2.溶存酸素の鉛直分布特性
溶存酸素の分布も水温・塩分、特に水温の分布特性と対応している。溶存酸素は表層で4.55・/・の最大値をとり、水深400m付近から深度とともに急減し、910mで1.70・/・の最小値を示したあと深度とともに緩やかに増加した。詳しい鉛直分布特性を見ると、水深0m〜80mでは約4.54-55
・/・で一定、水深80mから400mでは0.5・/・の範囲でやや複雑な変動を示した。400mから820mでは約0.6・/・/100mの著しい酸素低下が見られ、特に400m〜420mで顕著であった。得られた溶存酸素の鉛直分布パターンを見ると、季節変動の影響は水深400m付近にまで及んでいる可能性が感じられる。それ以深での溶存酸素の急減は、光合成活動による酸素の生産が活発な表層水の影響がなくなっていくことを示していると推察される。
100m以浅の溶存酸素飽和度は95%で、100m〜300mまでは水温が低下するために、酸素飽和度は深さとともに減少している。それ以深は飽和度は濃度と同じような分布を示した。800m以深の飽和度は約25%であった。
3.栄養塩類の鉛直分布特性
アンモニウム塩と亜硝酸塩は0〜593mの10層で測られたが、アンモニウム塩は全て0.00μM、亜硝酸塩は148mで0.01μMを検出した以外はすべて0.00μMであった。
硝酸塩は、99m以浅では0.00μM、99m以深から深度とともに増加していき、水深991m〜最大深度1,659mまでは約40μMで一定である。99mから148mまでが4.08μM/100mの増加率で最も高い。水深148m〜398mではやや増加率が下がり3.22μM/100m、水深398m〜991mでは1.56μM/100mであった。水深991m以深では1,385mの最大値40.35μMになるまで増加し、最大深度1,659mでは39.97μMと減少する。水深1,187m〜1,659mの増加率は0.073μM/100mと小さい。
リン酸塩も硝酸塩と同様に、水深0m〜99mでは殆ど0μMに近く(その間の最大値は0.02μMで最小値は0.01μM)、水深99m以深から深度とともに増加し、水深約800m〜1,000mでは増加率が減少し、水深約1,000m以深では約2.9μMで安定する。水深99m以深では、148mまで増加率0.37μM/100mと急激に増加し、水深148m〜398mでは増加率0.2μM/100mと減少し、水深398m〜793mでは再び増加率が上がり0.96μM/100mであった。水深793m〜991mでは増加率0.11μM/100Mに減少、水深991m以深は1,187mおよび1,385mで最大値2.90μMをとった後、最大水深1,659mで2.88μMと減少するが、水深991m〜1,659mまでの増加率は0.03μM/100mと低い。
珪酸塩も表層で低く深層で高い値で安定し、硝酸塩およびリン酸塩と同様の傾向を示すが、硝酸塩とリン酸塩が99m以深で増加し始めるのに対し、珪酸塩は水深398mまで顕著な増加は見られない。また、硝酸塩とリン酸塩は991m以深で増加が減少し始めるのに対し、珪酸塩は1,187mまで深度とともに増加する。また、表層99mまでの珪酸塩濃度は低いが、1.68〜1.82μMが検出されている。
硝酸・リン酸・珪酸の増加率を安定層における各栄養塩類の平均値(硝酸塩は991m〜1,659mの40μM、リン酸塩は991m〜1,659mの2.9μM、珪酸塩は1,583m〜1,659mの146μM)で割って深度方向の相対増加率を比較した。水深99m〜398mでは、硝酸塩が0.063μM/100mでリン酸塩が0.058μM/100mになるのに対し、珪酸塩は0.016μM/100mと低く、珪酸塩が他の2栄養塩類と比較して99m〜398m層ではあまり増加していないことが分かる。同様に水深991m〜1,385mで比較すると、硝酸塩は0.0054μM/100,とリン酸塩は0.0033μM/100mに対し、珪酸塩は0.048μM/100mと一桁大きい。この結果から、硝酸塩とリン酸塩は水深991m〜1,385mではすでに安定層に達しているのに対し、珪酸塩はこの層でも増加していることが分かる。
水深148m以深の硝酸塩とリン酸塩の相関をみると、相関係数(r2)が0. 9999と非常に高く、ほぼ原点に回帰した。しかし、硝酸塩と珪酸塩の相関係数は0.9301で、リン酸塩と硝酸塩の相関に比べると約0.06ポイント低く、原点回帰からかなり外れている。各水深での硝酸塩に対するリン酸塩の比は、400m以浅では深度とともに減少し、400m以深では平均0.072μMの一定値を示し、0.0716とほぼ同じ値となる。一方、硝酸塩に対する珪酸塩の比は、400m以浅で減少、400m以深では深度とともに増加し一定値をとらない。これは、硝酸塩濃度は1,000m以深で安定するが珪酸塩は1,400mまで増加することに起因する。
4.クロロフィル色素の鉛直分布特性
クロロフィルaとフェオ色素は0m〜200mの間で7層で測定された。
クロロフィルaは50m以浅の4層は0.166〜0.179μg/・でほぼ一定、100mで0.262μg/・の最大値を示した。150mと200mではそれぞれ0.030μg/・と0.013μg/・と少ない。200mまでの水柱内の全クロロフィルa量を求めると2.737mg/・/m2になった。
フェオ色素もクロロフィルaと同様の鉛直分布を示し、50m以浅の4層は0.071〜0.087μg/・でほぼ一定、100mで0.160μg/・の最大値を示した。150mと200mではそれぞれ0.055μg/・と0.035μg/・と少ないが、150mと200mではフェオ色素の量がクロロフィルaの量より多い。200mまでの水柱の全フェオ色素量を求めると1.731mg/・/m2になった。
クロロフィルaの各サイズ画分が全体に占める割合は、100m以浅では10μm以上が3.91〜4.32%、3μm以上10μm未満が7.41〜8.94%、1μm以上3μm未満が16.2〜22.5%、1μm未満が65.3〜71.0%とほぼ一定で、1μm未満が全体の約65〜70%と大部分を占めた。一方、150mと200mでは、10μm以上が0.00%と3.33%、3μm以上10μm未満は7.6%と10.0%でほとんど変化しないのに対し、1μm以上3μm未満は50.0%と69.2%で、全体に占める割合が100m以浅の2倍以上になり、逆に1μm未満は23.1%と36.7%で、全体にしめる割合が100m以浅の約半分となっている。
フェオ色素の各サイズ画分が全体に占める割合は、100m以浅はクロロフィルaと同様で、100m以浅では10μm以上が11.4〜15.6、3μm以上10μm未満が7.50〜10.3%、1μm以上3μm未満が16.2〜22.5%、1μm未満が56.3〜63.2%とほぼ一定で、1μm未満が全体の約56〜63%と半分以上を占めた。150mと200mではクロロフィルaの分布とは異なり、10μm以上が27.3%と22.9%、3μm以上10μm未満は16.4%と25.7%で100m以浅より増加した。1μm以上3μm未満では20.0%と22.9%で微増、1μm未満は0.36%と0.29%で100m以浅の約半分を占めた。
考察
「海ヤカラ1号」近傍の調査点で1997年12月21日に行われた観測結果から、250m以深の水塊は西部北太平中央水の特徴を持っていることが明らかになった(Sverdrup
et al. 1961)。水深160m〜800m付近に、水温差19℃の顕著な水温躍層が見られ、成層構造の発達していることが分かる。水温の鉛直分布パターンから水深200m以浅が季節的な影響を大きく受け、200m〜400mが漸移帯、400m以深は永年成層域と判断される。したがって400m以深の水温は季節的には大きな変動を示さないことが推察される。また、800mには水温5℃以下の低水温水が分布している。
栄養塩類は水深100m以深から深度とともに濃度が上がり、硝酸塩とリン酸塩は水深800m以深でほぼ一定濃度、珪酸塩は1,200m以深で濃度が安定してくる。
溶存酸素は水深400m付近までが4.1〜4.6・/・で、それ以深では水深800m付近まで深度とともに濃度が低下し、8・/・程度にまで下がっている。酸素飽和度もほぼ濃度分布と同様の鉛直分布パターンであるが、100m〜400mで水温低下による深度に伴う飽和度の低下が認められる。800m以深の酸素飽和度は約25%である。
深層水の資源特性としては、ここでは低水温・栄養塩類が確認された。水深400m以深から海水を汲み上げて利用する場合には、これらの資源特性は周年安定していると考えられる。資源密度から考えると水深1,400m以深はどれも安定して最大、1,000m〜1,400mは珪酸塩がまだ最大値に達してないがその他の資源生ははほぼ最大で一定、400m〜1,000mではすべての資源性が水深とともに変化し、浅いほど資源密度が低下する。400m以浅は資源密度がさらに低く、かつ、水深が浅くなるほど季節変動を示すようになると考えられる。
生物生産の活発な水深は0m〜100mで、生物の活動は生産層を中心として、0m〜200mまでが大きいと考えられる。したがって、200m以深は水深とともに生物密度は低下し、いわゆる清浄性は深さともに高くなると推察される。
溶存酸素濃度から水深800m以深は飽和度25%程度の水塊があり、沈みこんでからの時間経過が大きいと考えられる。
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